憲法改正なしの首相公選制とは?
日本の政治の劣化が叫ばれています。毎年夏になると、恒例行事のように国会で権力闘争が起こり首相が交代します。昨年は辞職を表明した首相が居座り続けるという前代未聞の醜態を晒し、国民不在の政局の中で重要政策は何一つ進展しません。これでは被災地の復旧復興が進まないばかりか、国民生活は益々苦しくなり国際政治の中で国益を守ることもできません。
ここまでくると「国のトップリーダーは主権者である国民に選ばせろ」という声が大きくなるのも当然でしょう。国会議員が選出する首相の多くは国民の要望からかけ離れています。国民が選挙で直接選んだ首相が、国民の信任の下に強い指導力をもって政策を実現し、一定の任期を全うする。そうなることによって国民の国政への参加意欲と責任感を醸成することにつながります。国会議員が多数派工作で首相を選ぶよりも、国民が政策論争を通じて直接選ぶ首相の方が民主的で正統性があるともいえるでしょう。
これまでも政治不信が極まると、この首相公選論が提起されてきました。中曽根、小泉両元首相も公選論者でした。しかし、そこには必ず憲法改正という壁が立ちはだかり頓挫してきた歴史があります。
憲法67条は、「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決でこれを指名する」と明記しており、日本が議院内閣制の政治体制であることを保障しています。この条文がある限り首相公選を実行することは不可能とされているのです。
しかしながら、この条文を改正せずに実質的に首相公選を実現できないのでしょうか。実行可能な方法を提起します。
まず、国会議員の中から首相候補者を定めて有権者に提示します。乱立を防ぐために一定数(例えば国会議員総定数の10%)の国会議員による推薦人を集めることを義務付けます。次に、候補者は政策論争中心の選挙戦を実施し、有権者は首相に最もふさわしいと考える候補に投票します。内閣総辞職あるいは衆議院解散総選挙の直後に、このような首相候補を決定する選挙を行います。
この選挙は、複数の候補者の中から1回の投票で相対多数の票を得た者を首相候補とする方法のほか、より大きな信任を与えるために、1回の選挙で過半数の票を得た者がいなかった場合は上位2候補による決選投票を行う方法も考えられます。いずれにしても、ここで選ばれた者が国会における唯一の候補となり、国民の選択を最大限に尊重して国会が内閣総理大臣として承認し、天皇が任命します。
以前に慶應義塾大学の小林良彰教授も提案していますが、こうした形式であれば、天皇の権限や議院内閣制の憲法の規定を改正せずに運用を工夫することによって、実質的に国民が首相を選ぶ首相公選制を実現することが可能となります。
もちろん首相公選制にも議院内閣制にもメリットとデメリットが併存します。特に首相公選には知名度だけで見識のないタレント候補が首相に選ばれるという危惧も指摘されますが、この案のように立候補資格を国会議員に限定し、推薦人制度を設け、政策論争中心の選挙を制度化することで防ぐことができるでしょう。
現行憲法は制定以来改正しないまま、解釈を広くとることで現状に対応してきました。改正を実現できる政治状況ではない以上、解釈拡大で対応する他ありません。
国政の混乱が極まる中で、政治のリーダーシップを確立し、政策推進を図り、国民の政治参加を促すための改革を進めなければ、この国は衰退するばかりです。国のトップリーダーを決める権限を、主権者である国民に実質的に移譲する首相公選制を導入して日本の政治を再生しましょう。私はこの改革を「日本民権運動」と名付けます。多くの国民の皆さんのご賛同とご協力をお待ちしております。